風俗の市場規模を見積もった書籍への苦言

ASIN:9784757213548:detail

どうにも微妙な本。やっつけ仕事感満載。
本書は大きくは2部から構成されている。

  1. 現状の風俗産業の分類と各市場規模の試算
  2. 各国の風俗産業のあり方と今後の日本でのあり方


前者は細分化されてきている風俗産業を簡単に説明しつつ、市場規模を試算する内容。知らない人にとっては興味本位で読めるだろう。

後者、各国の風俗産業のあり方については、現状把握が不十分なため、現状の課題が判らない。あるべき姿も不明確。結果、「禁止すれば闇に潜る」という一般論に。

苦言

それだけならまだいいのですが、苦言が二点。

  • 著者の数字が一貫していない

端的にいうと著者の風俗産業全体の規模が書籍によってずれてる。
著者の「日本地下経済白書」では風俗産業は約2兆円*1、一方で本書の風俗産業市場規模を総計すると5兆円。*2

出版年もそれほどずれてないのだから、いくらオーダーレベルでの概算といっても帳尻は合わせた方がいい。これではやっつけ仕事と思われても仕方ないのでは?

本書では言葉の定義が曖昧なため、前者と後者が違うものを指している可能性もあります。せめて風俗産業と言ったとき、どの範囲を対象としているのか明確にしてほしいな。

  • FACTの押さえ方も不十分

「ん?」と疑問符がつく部分が随所にあり、ツッコミどころはいくらもあるのですが、一番著者の土俵に近いと思われる部分に言及します。

「最近、ギリシャの統計局は、売春や密輸などのいわゆる『ブラックエコノミー』をGDPに含めると発表した。(中略)『ブラックエコノミー』を参入することによって、ギリシャGDPは年間400億〜600億ユーロもおしあげられることになるという」*3

この数字、GDPの約25%に該当します。EUでは各国のGDPをベースに役割分担を計画するため、大変重要な数字です。公式に「ブラックエコノミーを足したら、GDP25%上方修正になっちゃいました。テヘ」で済む話ではありません。

確かにロイターが伝えたニュースとしてそういう内容はありましたが、これそのまま鵜呑みにしていいんですか?


実際ギリシャ政府が発表している内容は、
http://www.mnec.gr/en/press_office/DeltiaTypou/articles/article0035.html

Greece's upward revision is primarily the result of the improvement of statistical methods to measure the fast-growing services sector. A smaller factor, 0,7% of the 25%, is related to the inclusion of estimates of illegal activities.

「25%の見直しが行われたのは統計手法の改善の結果で、ブラックエコノミー*4の影響は0.7%」と主張しています。
そりゃーそう言うでしょう。更に統計手法の改善は「5年置きに行う」というEUの規定に沿っているため、正当なんだそうです。*5

うーん

つっこみたい部分は一杯あるけど。ここまで。
門倉さんも「統計手法」についての本は面白かったのにな。


あまり名前を売ることを意識してガンガン書籍を出す必要もないと思います。
せっかく面白い領域ですし、かっちりと仕事をされた方がいいのではないでしょうか?

*1:p265より「セックス産業の非合法所得」を2003年度で試算

*2:本書第二章よりデリヘル、ソープ、ファッションヘルス、ピンサロ、援助交際SMクラブの市場規模を総計

*3:本書P150-151

*4:原文では違法行為。売春業はギリシャでは合法なのでそもそもここには入っていません。何がいわゆる「ブラックエコノミー」なのか正直判りにくい

*5:当時のFTの記事でも財務大臣が同様の発言をしていますね。http://www.ft.com/cms/s/d2b246a2-4f15-11db-b600-0000779e2340.html